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    日本ALS協会宮城県支部設立の趣旨

    筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis 以下ALS)は,脊髄の前角細胞,脳幹の運動性脳神経角細胞および錐体路を変性脱落させる進行性の疾患である。

     一般に自然経過、予後は不良とされてきた。しかし、ALS患者の中には10年以上生存する方もまれではなく,時には緩解あるいは改善傾向を示す方がいる。原因究明の努力は最近ようやく家族性ALSを突破口として実を結ぶ気配がみられるようになった。

    原因究明とともに、これまで全くお手上げ状態であった薬物治療についても最近ようやく明い兆しが見え始めるようになった。

    ALSでは病状の進行に伴って全身の筋力が次第に低下し、運動,コミュニケーション,嚥下,呼吸等の重要な機能が冒され,ADL(日常生活動作)の著しい障害,QOL(生命・生活の質)の著しい低下をきたし,終には生命の危機に晒される。

    運動神経のみが選択的に冒されるため、知的障害はなく、意識も清明である。むしろ知的な活動は亢進することが,宇宙物理学者のS.W.ホーキング博士,作曲家のD.ショスタコービッチ氏等の業績や,その他多数のALS患者の闘病記,作品によって推察される。

    しかし、呼吸困難を回避する気管切開,人工呼吸器装着も,その後の療養体制が望めない場合には不本意ながら涙を飲んであきらめざるをえない場合すらある。たとえ,患者の希望により人工呼吸器が装着できても,長期入院可能な受入先の病院の確保は難しくなる一方である。

    皮肉なことに充実した看護体制をとる急性期対応型の病院でこそ,平均在院日数縛りや,入院時医学管理料,看護料等,診療報酬点数の逓減制による減収などの医療機関側の苦しい事情で,ろくな準備もないまま退院を余儀なくされる,あるいは転院を繰り返さざるを得ない等の場合もある。

    また、在宅療養も、家族のQOLの犠牲によって患者の命を支えている実態があり,保健・医療・福祉の連携が叫ばれる中で,量,質いずれの面でも,人的,物的,経済的,精神的支援が著しく不足している。

    ALS患者のように,一般には回復が難しいとされる場合でも,かかわり合い・支え合いの絆が強ければ,過酷な条件下生き抜く力を沸き立たせて,病床にあっても社会的役割を担い,自ら癒されるばかりでなく,医療者をはじめかかわる人をも癒す人が大勢いる。

    患者も,家族も共に精一杯生き抜くことに喜びを見いだしている。単に年齢と病型だけで予後が決まるという段階で甘んずるならば,医療・福祉の存在は意味を持たないと思われる。根治治療が望めないからといって,何もできないわけでは決してない。症状の進行に応じて,チームアプローチにより適切な医療・福祉サービスを提供できるかどうか,医療・福祉の質そのものがALSの療養システムによって問われている。

    しかし,診療報酬上在宅医療の評価がわずかに上がったからといって,おしなべてALS患者が在宅医療に移行すべきということにはならない。医療機関の入院,施設での療養生活を送るか,あるいは家庭内の住み慣れた環境で過ごすかは,患者および家族の選択であり,どちらかが絶対好ましいということではない。

    在宅医療のための問題点はこれまでも繰り返し指摘されてきたが、安心して療養が続けられるシステムを早急に整備する必要がある。さらにまた,1年365日24時間安心のケアを保証するサービスの実現には,在宅医療の以外の選択肢も提言されている。1つめは訪問看護サービスによるもの,2つめは短期,長期の滞在型施設の整備である。

    呼吸療法士協会とGallop社が行った調査によると、アメリカに おける長期人工呼吸器装着者の退院場所は,Skilled Nursing Facilityに45.0%,Long-termCare施設に43.0%,患者宅(在宅)に12.0%となっている。

    米国のSkilled Nursing FacilityやLong-term Care施設に相当する施設を検討することも方法の選択肢であろう。これらは病院ではないが,看護職が充実してサービスにあたり,外出することも自由にできるような,生活上の制限が少ない施設である。

    それがなされなければ医療界全体として社会的な批判にさらされる。在宅医療がいかに進んでも,神経難病のように常時医療の監視下で,しかもハイケアの提供が必要な患者は,二極分化された療養病床ではその対応が困難である。

    現在これらの患者は,一般病院の中で生活面への配慮がないままに肩身の狭い思いで入院している。このため介護型への二極分化ではなく,専門看護を主体として,専門医療を提供し長期に渡る入院の継続を保証する施設が必要になってくる。

    ALSをはじめ医療依存度の極めて高い難病患者が,入院であれ,施設療養であれ,在宅療養であれ,自己の選択に基づき,安心して療養生活が続けられるためには,医療費公費負担とともに,療養形態のいかんを問わず,介護保険、支援費等の混合給付の保険適用が是非とも必要である。

    このような激動の中で,ALS患者・家族を取り巻く状況もドラスティックに 変化せざるを得ない。

    そこで,ALS協会宮城県支部は,日本ALS協会本部,各支部との連携を強化しながら,会則に定める目的を達成すべく,主体性をもった活発な活動を展開していきたいと考える。


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