第六回(最終回) 筋萎縮側索硬化症(ALS)の方の食事について

はじめに

私たちにとって食事は、炭水化物・脂肪・たんぱく質・ビタミンなどの栄養素と水分を十分に摂ることで生命を維持することとして重要なばかりではなく、家族との食事や友人との会食を通しての楽しみやコミュニケーションなど社会的交流としても大変重要な作業と言えます。

ALSの方の場合、食事に関する次のような生活機能の支障が考えられます。

第1には、のみ込む働きそのものが悪くなること(球麻痺による嚥下障害といいます)です。その症状としては、食事に時間がかかって疲れたり、食べ物が気管に入ってむせて苦しむ(誤嚥といいます)ようになったりします。そのために食事の楽しみは失われ、逆に食事を嫌がるようになり、その結果、十分な量の食べ物や水分を摂ることができなくなります。

第2には、手や腕の力が弱くなるためにすぐに疲れてしまい、十分な量の食べ物や水分を口に運べなくなります。

第3には、手足の力が弱くなって用便に介助が必要になると、トイレの回数を減らそうとして飲む水分量を意識的に減らしてしまいます。飲みたい気持ちを我慢することになり、その結果、必要な水分量が不足することになってしまいます。

今回は、ALSの方にとって困難になる食事について、誤嚥を防ぐ食事の方法や食べ物の形態を工夫する方法などについてお話したいと思います。

食事の時の姿勢について

まず食事は、安全に食べることが最も重要なことです。そのために食べるための姿勢が大切になります。椅子や車椅子などに座って食べたり、座れない方はベッド上でよいので、上体を30度程度ギャッジアップして起こし、頭の下に枕を入れて頭が少し持ち上がるよう(あごを少し引き気味にする姿勢)にして食べるようにするとよいでしょう。しかし上体を起こしたままの姿勢が苦しい場合は、飲み込みやすい姿勢(横になったままでなど)で食べる方法でも良いようです。ただしいずれの姿勢でも、食べた後は、胃からの逆流を防止するために、できれば1時間以上座位を保たせることが必要です。これだけでも誤嚥性肺炎の予防に効果があります。

次に食べ方ですが、一度に口に入れる食べ物や汁物は少なくし、固形物と汁物を交互にとることが大切です。また、口に取り込んだ後は、あごを引いて「ゴクン」と飲み込むと「むせ」が少なくなります。起きて座れない方はベッド上でよいので、上体を30度程度ギャッジアップして起こし、頭の下に枕を入れて頭が少し持ち上がるよう(あごを少し引き気味にする姿勢)にして食べるようにするとよいでしょう。一回の食事に時間がかかって苦痛な場合もあることと思います。その場合は、食事回数を増やして一回の食事量を減らすのも良い方法です。

介助が必要な方の場合は、食べる機能を介助するだけではなく、食べることを共有するように正面から、一口サイズずつ食べ物を口に入れることが大事です。比較的小さめなスプーンを用い、ご本人が口の中で噛み切らなくても良い口に収まる量を入れるのが適量です。うどんなども一本か二本ずつ口に運ぶようにします。その都度「ゴクン」という飲み込みを確認し、次の一口を進めてください。また、固形物とみそ汁などの汁物を同時に口に入れないようにします。汁物はそのまま気管に入りやすく、誤嚥しやすいため、介助者はスプーンを傾けて流し込むのではなく、ご本人がスプーンから吸い込むように口に摂り込んで下さい。また、熱いものをそのまま口に入れないように注意が必要です。

食事の道具について

ALSの方は、全身の筋力が低下するという症状があります。食事においても腕や指の力が入りにくい、だんだん疲れてくるなどの症状が食事動作に直結する問題になりやすいです。一食を完食するためには、箸やスプーンといった道具を握ったまま、腕の上げ下げ、肘を曲げ伸ばしなど思いのほか腕の力を要するものです。そこで工夫できることは、道具の重さ、握りやすさ、操作性です。一般的には、軽い素材でできているものがよいようです。また指の力が弱くなってくると握りこみができなくなってきますので、道具の柄の部分を太めのものを選ぶ、スポンジなどをかぶせるなどの工夫が良いようです。

腕の全体の力が弱くなってくるために口まで運びにくくなることもあります。その場合は、スプーンなどの柄の少し長くなっているものを選ぶことや、使用するテーブルの高さを高めにして、腕を動かす距離を短くするなどの工夫も有効になります。

寝たまま飲めるハジーボトル シェア・グリップマグ 柄が太く握りやすいスプーン 柄が長く小さめなスプーン

食べ物の形態について

最も良いのは柔らかくて水気があり、かつ滑らかな食べ物です。肉や果物はすりつぶしてピューレ状にして柔らかくします。パンのようなパサついたものはミルクやスープなどの液体の食品に浸して食べるようにすると良いようです。以外に思うかもしれませんが、「さらさらした液体」よりも、「とろみのある液体」の方が飲み込みやすいものです。例えば、すり潰したジャガイモを加えるなどして汁物には「とろみ」を持たせるのも良いでしょう。澱粉などを主原料とした嚥下補助食品(商品名「トロメリン」「トロミアップ」「スルーソフト」「エンガード」)が市販されています。日常的に利用するのもよいでしょう。

液体は室温のままよりも、冷やした方が飲みやすくなるようです。

さいごに

ALSが進行することで嚥下障害が進行していきます。そのため口から食事を摂取することが困難になることから、良好な栄養状態を保つために栄養チューブを腹壁から直接胃に入れる「胃瘻」を増設する必要があります。ALSの症状として筋肉が衰え、痩せてゆく経過と共に精神面からの食欲不振、嚥下障害の進行により食事を摂取する作業が安全にまたうまくできずに1、2ヶ月の間に急激に衰弱してしまうこともあります。その対処的手段としての医学的方法です。栄養チューブから通す食事は、家人が毎日食べているものをミキサーで水様物にして注入するのがすすめられるようです。ただし、トマトの種などでチューブをふさいでしまうもの等は危険ですので、注意と工夫が必要です。医師の適切な処置と判断を基本とした上で、ご本人、ご家族の正しい知識と介護者による日々の適切で安全な管理をする事で対処できる方法であり、様々な方法により、栄養摂取が可能になります。


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