第四回 コミュニケーションその1(文字盤)

コミュニケーションの支援とは

第2回第3回と呼吸のリハビリテーションや身体の関節の運動についてお伝えして参りました。ALSの症状が進行し全身の筋力が低下していきますと、呼吸や上肢の運動機能も低下していきます。そして呼吸に関わる筋力が低下すると言葉が発しにくくなり、上肢の筋力が低下すると文字を書くことが難しくなって、コミュニケーションに支障がでてきます。ここでコミュニケーションとは「おはよう」「ありがとう」といった挨拶から、日常会話や用事を頼むことなど、主に言葉を用いて他の人とやりとりすることをさしています。発音が不明瞭で何度も繰り返して話さないと伝わらない、ペンを操作する時に上手くかけず上肢に疲労を感じやすい、というのは大変もどかしい状態ですね。ALSの方は言葉や文字の理解力は保たれていらっしゃるので、伝えたいことを思うように伝えられない、ということはより一層のストレスとなるようです。コミュニケーションは送り手と受け手の両方で成り立つものですから、受け手の側も同じように聞き取りたいけど分からない、というもどかしさを感じやすくなります。そのような場合にコミュニケーションを支援する一つの方法として指文字盤と透明文字盤があります。今回はこの使い方、作り方についてお話ししていきます。

指文字盤について

発語が難しく、ペンを握って文字を書くことは難しいけど、指や手首、肘などを少し動かすことができる、そのような場合にこの指文字盤が役に立ちます。

作り方

指文字盤は50音表や単語表などを紙に書き、(もちろんパソコンで加工しても良いです。)それを段ボールや板に貼ったり、ファイルケースにはさめたりして作ります。50音表、単語表のモデルは以下のようなものです。

50音表 単語表

初めて文字盤を作る時には事前に次のようなことが確認できていると良いです。

使い方

ALSの方が指文字盤に貼られた50音表、または単語表を指先で一文字ずつ順番にさしていき、聞き手がそれを読み取ります。(左の絵)聞き手は同じ方向から文字盤を見ると読み取りやすくなります。

慣れてきたら新たに工夫をして文字盤を作っていくとより便利になります。例えば、全身の絵の文字盤を作成すると、「痛い箇所はどこ?」の様な質問に答えやすくなります。またアルファベット、カタカナで作ることもよいです。

透明文字盤について

上肢の筋力が低下していて文字盤の使用が難しい場合、この透明文字盤が役立ちます。これは、進行しても維持されやすい眼球の動きを使ったコミュニケーション方法です。透明文字盤とは文字通り透明のアクリルボードに50音表などがかかれた板です。この文字盤をはさんで、ALSの方と聞き手が対面式に向かい合います。ALSの方は眼球を動かして、一文字ずつ選んでいき、聞き手は視線を合わせるように文字盤を動かしていき選ばれた文字を読み取っていきます。

作り方

使い方

ALSの方、聞き手のそれぞれが姿勢に無理のないように、文字盤を挟んで向かい合います。ベッドは30度くらいが楽なようです。文字盤は20~30cmほど離し、ALSの方は伝えたい言葉の文字を見ます。聞き手は文字盤を動かして、相手の視線と文字と自分の視線が一直線上にくるようにします。文字盤はゆっくりと直線的に動かして眼球がついてきやすいようにするとよいでしょう。聞き手は見ていると思われる文字を読み上げ、ALSの方はあっているときにはYESのサインを送ります。(あらかじめYES、NOのサインを決めておくと良いです。)読み上げられた文字が異なる場合には、伝えたい文字を見続けます。聞き手はYESのサインがない場合には、文字盤の位置をまた少しずらして調整し、正しい文字を見つけます。

以下にちょっとしたコツを書いておきます。

文字盤のご利用にあたって

発語は難しいけど上肢や指は動くというときには、筆談やトーキングエイドといった機器を利用することが多いかと思います。実際に文字盤を使いはじめるときは、言葉や文字によるやりとりから別の手段へ変えていくことになるのですが、そのことに抵抗を感じられることもあるかと思います。まずその気持ちを受け止めることは大切な事です。その上で、試しに何回か使ってみられるとその便利さも感じられてくると思います。しかし文字盤では伝えられる言葉の数、相手、時間が限定されてくるため、不自由さも感じられるかもしれません。長い文章は意思伝達装置の方が有利かと思います。一方で文字盤は短く、シンプルな言葉のやりとりになるかもしれませんが、そこに込められた思いが、どんな長台詞よりも胸に迫ってくることもあります。はじめはなかなかうまくいかないこともあるかと思いますが、粘り強く続けること、うまくいった工夫を積み重ねていくことで、コミュニケーションも広がってくるものと思います。


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