第三回 エクササイズ-暮らしの中で工夫できること-

エクササイズについて

第一回目で、手足を動かすこと、声を作ること、顔の表情、ご飯を飲み込むこと、呼吸することなど、日常生活のあらゆる活動に筋肉が関与していることをお伝えしました。また同時に、多くの場合筋肉を使うことは、関節の動きを伴うこととなり、関節の動きの柔らかさを保つことにつながるということをお伝えしました。

ALSの方にとって、その時々にできることを生活の中で継続して行うということはとても大切なことです。日常生活のさまざまな活動(食事をする、寝返る、立ち上がる、衣服を交換する、排泄するなど)をできるだけ快適に行えるようにするために必要な、関節の柔軟性を中心にお話したいと思います。

関節の柔軟性

ALSの方にとって、関節の動きの柔軟性を維持することが大切です。柔軟性とは、関節の可動範囲のことをいいます。この柔軟性が保たれれば、自分で、または介護をしてもらう上でからだを動かしやすくなります。一般的に、柔軟性が失われると、歩くこと、移動すること、椅子に座ったり立ち上がったり、ベッドの中で寝返りをうつことでも困難になります。膝の関節ひとつが曲がりにくいだけで、思わず「よっこいしょ」と掛け声をかけてしまいます。

また、柔軟性と可動範囲を維持することは、機能を保つだけではなく、『痛みの予防』にもつながります。関節が動きを失うと硬直し、いざ関節を動かそうとすると痛みが生じます。痛みが生じると、通常、人は身体を動かさなくなります(動かさないことで関節を護ろうとする)。そのため関節の動きはより一層小さくなります。四肢を動かさなくなると、循環と関節への栄養補給が減少し、関節はより一層固くなり、痛みが増すようになります。つまり、悪循環が始まってしまうのです。

そのために、からだの各関節を痛みのない範囲でまんべんなく、ゆっくり、やさしく動かすことが必要です。ここで述べる各関節とは、腕と脚の関節が中心になりますが、腕には、肩・肘・手首・指の関節があり、脚には、股・膝・足首・足趾の関節があります。肩や股関節は、腕や脚を挙げたり回したり、肘や膝関節は、曲げ伸ばしに、手首や足首は曲げたり回したり、手指や足趾は握ったりつまんだりなどの関節運動があります。柔軟性が保たれていれば、動かしたときや動かされたときに痛みを感じることなく、滑らかに動くことが出来ます。このように各関節の動きは、日常生活に当てはめてみると、肌着のシャツを着る脱ぐ時には、腕を大きく挙げたり、下ろしたり、肘も曲げたり伸ばしたり、シャツをしっかり握るために指は曲げ手首を固定していたりなど、あえてトレーニングと意識しなくとも柔軟性のためのトレーニングになっているのです。毎日の食事、衣服の交換や入浴、排泄、シーツ交換時の体位変換など繰り返し行っていること自体が、柔軟性や筋肉に役立っていることです。

ただ、使われにくい関節や運動がありますので、意識的にトレーニングとして、毎日一回各関節をまんべんなく、痛みのない範囲で大きく動かすことが必要です。ご自分で腕や脚を支える力が弱くなってきた場合は、どなたかが動かす必要がありますが、その際の注意していただきたいことは、動かしすぎないことです。動かした時にきつい感じがあったらそれ以上動かさないことです。目安を作るとよいですね。例えば腕を上に挙げる運動では、二の腕が耳のあたりまで(写真1)とか、肘を曲げる運動では、肘の角度が90度程度(写真2)、また脚を曲げる際は、股関節と膝関節が共に90度程度まで(写真3)などと、目安を決めると行いやすいかもしれません。それから、支える力が弱い場合は、介助する方が、腕や脚の重さや関節をしっかりと支えて動かすことも大事です。写真1・2では肘と手首を、写真3では膝の下とかかとをしっかりと支えています。これは、関節を効果的に動かすためと関節を痛めないために重要です。まずは、介助する方自身が、どの程度動くものか確認してから動かすとよいでしょう。

写真1
(クリックすると別画面で開きます)
写真2
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写真3
(クリックすると別画面で開きます)

筋力維持と機能

可能な限り長い間に亘って筋力を保つことが、ALSの方にとって目標になりますが、ALSの方の運動神経は、大変疲労しやすい特徴があります。従って、筋肉を過剰に使用しすぎるような「筋力強化」のためのトレーニングは、筋肉を過剰に使いすぎてしまい、筋肉が過労状態となってしまいます。特に注意していただきたいのは、運動量の加減です。その目安は、運動後、あるいは運動(トレーニング)の翌日に筋力の低下(力の入りにくさ)を感じた場合には、運動量が過剰です。次回には、運動量あるいは時間を減らさなければならないでしょう。運動の最中に痙攣が起こったり筋肉疲労(だるさ)を感じた場合は、中止あるいは休息が必要です。運動による疲労のために、機能的な動き、例えばコンピュータを使ったり、靴を履いたり、自分で食事するなどの作業が困難になってしまうこともありますので、毎日の日常生活とのバランスが必要になります。

また、筋力が低下してくると困難な動作がでてきますが、機能維持のために様々な補助具があります。足首から力が入らずにつまずきやすい場合は、足首を固定する補助具の活用や杖や歩行器、ネックカラー(首の姿勢保持のため)などの活用があります。また、特別な補助具を使わずともちょっとした工夫で、必要以上に筋力を使わずにできることもあります。例えば、肘掛のついている椅子の利用により姿勢が安定する場合や、本を読む時は、本を手で持たずに、本を眼の高さに置いて(台の高さを高くしてなど)読むこと、重すぎる靴を軽めの物に変える、整髪ブラシに長い柄を固定して使ってみるなど、無理に疲労を伴う動作をせずに、筋力の『省エネ』をすることも必要です。道具の活用や少しだけ発想を変えてみると『こんな方法なら楽にできる!』ことが増えるかもしれません。


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