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【顔の表情を作るのも筋の働き】 |
ご存じのように筋肉は身体中の至る所にあります。手足や体幹を動かすのも筋。声を作るのも筋。そして,ひととコミュニケーションをとるときに大切な顔の表情を作っているのも筋。ご飯を食べるときの機能である噛む・飲み込むという働きを担っているのも筋。絶えず行われている呼吸という運動を担っているのも筋です。また,多くの場合筋肉の収縮は関節の動きを伴うため,身体の各部の関節の柔らかさを保つことにも大きく関わっています。
筋力が低下すると日常生活のいろいろな場面に影響が出てきます。
一番気をつけなければならないのは,肺炎の予防です。風邪をひいたときに痰が絡み咳き込むことは誰でも経験することですが,痰を排出する=「吸った息を"勢いよく"吐く」ために実は多くの筋肉が関わっています。①呼吸に関わる筋(横隔膜・内外肋間筋・斜角筋群・胸鎖乳突筋・僧帽筋・大胸筋など)②腹筋群(腹直筋・内外腹斜筋・腹横筋など)などがそれに当たります。これらの筋の筋力が低下すると痰があっても排出することができず,肺炎を引き起こす原因となります。
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【吸う時には横隔膜が下がる】 | 【吐く時には横隔膜が上がる】 | 【横隔膜の動き】 |
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【食事は楽しく安全に】 |
また,一日三度の食事の機会も肺炎の原因となることがあります。ご飯を食べるときの噛む・飲み込むという働きも筋肉が担っていることは述べましたが,この機能が低下すると,食べたものをかみ砕き,唾液と混ぜてひとかたまりの食塊にして飲み込み,食道へ流し込むという一連の働きがうまくいかず,気道へ食物の残渣が入ってしまい肺炎を起こしてしまいます。さらにこの一連の働きには,姿勢が大きな影響を及ぼします。これらの痰を排出する・食べるという2つの機能が低下すると,肺炎を引き起こし,呼吸機能の低下を招き,全身への影響を及ぼしてしまいます。
そして,コミュニケーション。コミュニケーションは会話という方法と表情・ジェスチャーという方法でとることができますが,そのどちらも筋の働きによって行われています。私たちは吐く息とともに唇や舌などの動きで音を作り声として出し,表情は顔面の筋により作り出されています。この発声というコミュニケーションの中でも大切な機能は,食べるという機能と重複し,またどちらも呼吸機能と深いつながりを持っています。
つまずきや転倒は足の筋力の低下で起こりますし,持っている箸や鉛筆の操作がうまくいかない,机の上にあるものまで手が届かないということは腕や手・体幹の筋力低下で起こります。
ALSの方にとってその時々でできることを生活の中で継続して行うということはとても大切なことです。専門用語では「廃用症候群の予防」という表現になりますが,使わないために起きてくる様々な症状(関節の動きが悪くなる,筋力が低下するなど)を予防するために必要な,基本的な考え方です。そのためにさまざまな「工夫」や「関わり」が必要となってきます。また,自分が日常生活の中でできることと家族や専門職との関わりの中で行うことも整理していくと役割分担ができて良いと思います。この回では簡単に説明するにとどめますが・・・。
・ | た | さ | か | あ |
・ | ・ | し | き | い |
・ | ・ | す | く | う |
・ | ・ | せ | け | え |
・ | ・ | そ | こ | お |
【文字盤の利用】 |
痰を出すために必要な呼吸機能を維持するには,酸素を取り込む効率がよく,かつ,外気を暖め潤しながら行える呼吸方法(腹式呼吸・口すぼめ呼吸)を練習し日常生活の中で行うようにします。食事の際には,誤嚥を防ぐための食事姿勢の調整などを行います。会話が困難となったときには筆談を行ったり,文字盤を使うという工夫をしたり,さらにはIT機器を使った意思伝達装置も利用します。また,日常生活の中で体操の時間を設けて身体を動かし,関節の柔軟性を維持するように心掛けたいと思いますが,その際は,翌日に疲れを残さない程度に,そして回数多く行うよりも1つの運動を丁寧に行うことがとても大切です。介助が必要となったときの寝起きの方法も,ご家族の介護負担をできるだけ軽減ができるような介助方法を取り入れていただきます。また,福祉用具を取り入れ生活環境を整えるという工夫もしていきます。
進行性の疾患であるALSの忘れてはならない特徴に,「症状に気がついたときから,ご本人はもちろんご家族も大きな不安を抱いての生活が始まること」があります。その不安を少しでも軽減していくためには,「ひと」の力が大切です。
他にも自分と同じように生活しているひとっているんだろうか?
介護負担が気になり始めたのでヘルパーさんに来てほしいけど・・・?
全身の健康管理はどんな風に考えたらいいの?
利用できる制度ってどんなものがあるの?
リハビリってどうするんだろう?
これら一つ一つのことの解決は,「ひと」と「ひと」との関わりの中で行われていきます。その相談相手をたくさん作って頂きたいと思います。
そして,「ひと」の中にはもちろんご本人ご家族も入ります。私たち専門職は,お一人お一人との関わりを通して成長していきます。ご本人やご家族の笑顔や一言により,持っている力を越えて120%の力を発揮できることがあるのはご本人ご家族の力があってこそです。
今回は,シリーズの内容を含めながら「リハビリテーションってなんだろう?」について考えてみました。これからは,生活の中でできる体操・介助方法,呼吸と日常生活,コミュニケーション(文字盤や意思伝達装置),食事とその姿勢などについてより具体的に解説していきます。どうぞよろしくお願いいたします。